次世代宇宙コンピューティングの革新 ~オシリス・コンピュータ・モジュール(HPSC)が切り拓く新時代~
.png?width=823&height=463&name=%E5%B0%8F%E5%80%89%20%E9%9D%96%E7%94%B7%20(2).png)
宇宙開発が新たな段階を迎える中、より高性能で信頼性の高いコンピューティングシステムが求められています。
PDC/DDCが開発した最新の「Osiris Computer Module(HPSC※)」は、従来の宇宙用コンピュータの限界を超える革新的な性能を実現しています。
今回、MIL-STD-1553で国内トップシェアを誇るPDC/DDC社代表の岡田さまと、当社 JFE商事エレクトロニクスでDDC/PDC製品のプロダクトマネージャーを務める小倉が、Osiris Computer Moduleの特長や技術的優位性、そして宇宙開発における意義について対談しました。
※High Performance Spaceflight Computing
目次
1. 宇宙コンピューティングの新時代
**小倉**
この頃、多くのお客様と打合せをさせていただく中で、宇宙開発におけるコンピューティング性能への要求の高まりを日々感じていますが、岡田さんはどのように感じていますか?

**岡田さま**
宇宙開発は明らかに新しい段階に入っています。
従来の人工衛星や探査機では、限られた処理能力でも十分でしたが、現在ではリアルタイムな自律判断、高解像度画像・センサデータの現場解析、複数システムの同時制御など、地上レベルの高性能コンピューティングが宇宙でも求められるようになりました。
特に月面基地建設、火星探査、小惑星資源採掘といった次世代ミッションでは、地球からの通信遅延が数分から数十分に及ぶため、現場での高度な自律判断が不可欠です。これまでのような「地上からの指示待ち」では対応できない複雑なタスクが増えているんです。
また、商業宇宙市場の拡大と同時に、防衛・政府系プロジェクトの増加により、開発期間の短縮とコスト効率も同時に求められています。ミッション(ペイロード)がより高度化していくなかで高性能でありながら実績のある信頼性を持つコンピューティングプラットフォームが必要になってきました。
次世代ミッションの要求の一例
| 要求項目 | 詳細要求・技術仕様 |
|---|---|
| リアルタイム自律判断 | 地球からの指示を待たずに現場で即座に判断・実行 |
| 高解像度データ現場解析 | 大容量データを軌道上でリアルタイム処理 |
| 複数システム同時制御 | 推進、姿勢制御、通信、ペイロードの並行管理 |
| 通信遅延下独立動作 | 数分~数十分の通信遅延環境での自律運用 |
| 放射線耐性 | GEO軌道での高放射線環境への対応 TID 100Krad |
| 高速通信 | 大容量科学データの高速伝送と複数機器間のリアルタイム通信 |
| メモリー容量増加 | 観測データの一時保存と優先度に応じた地球送信 |
2. PDC Osiris Computer Moduleの位置づけ
**小倉**
そうした背景の中で、PDCが新たに開発したOsiris Computer Moduleは、どのような位置づけの製品なのでしょうか?
**岡田さま**
Osiris Computer Moduleは、まさにこの新時代の要求に応えるために開発された次世代宇宙コンピュータです。従来の一般的な宇宙用OBC(On-Board Computer)と比較して圧倒的な処理性能(最大26,000 DMIPS)を実現しながら、PDCが25年以上培ってきた宇宙での実績と信頼性を継承しています。
これは単なる性能向上ではなく、宇宙コンピューティングの世界にブレイクスルーをもたらし、これまで不可能だった新しいミッションを可能にします。
そして、現在宇宙分野でも注目を浴びている、高信頼性高速Ethernet通信であるTSN for Avionicsのプロトコルも使用可能な点は注目ですね。
従来の宇宙用OBC vs Osiris Computer Module
| 項目 | 従来の宇宙用OBC | Osiris Computer Module |
|---|---|---|
| 処理性能 | 数百~数千DMIPS | 26,000 DMIPS |
| プロセッサ | 1コア中心 | 8コア |
| メモリ容量 | 数GB程度 | 16GB DDR4 + 128MB MRAM |
| 通信性能 | 従来規格中心 | TSN対応240Gbps |
| 適用分野 | 基本的な制御・通信 | 次世代ミッション対応 |
また、近年国防分野における宇宙利用のニーズが高まっています。
PDCとしてはナショナルセキュリティ分野での採用も進んでおり、実際に昨年、PDCのシングルボードコンピュータが米国宇宙軍の宇宙状況監視衛星に採用されました。
3. お客様からの具体的なご要望
**岡田さま**
お客様からは、最近どのようなご要望が増えていますか?
**小倉**
最近、多くのお客様を訪問させていただく中で、特に月面関係のプロジェクトでお引き合い、ご興味をいただく機会が増えてきてますね。
例えば、月の上で現場で物体を認知してリアルタイムで自律処理を行うニーズなど、月面開発が具体化しつつあることを肌で感じるようになりました。
**岡田さま**
Osirisでは従来のOBCでは不可能だった、このような高度な処理が可能になります。
今後はプラント・インフラ・居住空間・資源などの開発や、月面地球間の頻繁な往復を可能にする設備建設など、困難なミッションを実現するにあたって不可欠なコンピューティングに使用されると確信しております。
4. 技術的特長の詳細解説
**小倉**
技術的な特長について、もう少し詳しく教えていただけますか?
**岡田さま**
Osiris Computer Moduleの技術的特長は、大きく4つのポイントに集約されます。
Osiris Computer Module 主要技術特長
| 特長 | 詳細仕様 |
|---|---|
|
⚡
圧倒的な
処理性能 |
処理能力:
26,000 DMIPS
1 TFLOPS
プロセッサ:
Microchip社「PIC64-HPSC」(RISC-Vコア搭載)
|
|
🛡️
ミッション要求に
応じた放射線耐性 |
QML-Y認定(100Krad)
深宇宙ミッション、長期運用に最適
AEC-Q100相当(50Krad)
LEO/GEO衛星、商業ミッションに適用
コマーシャルグレード(30Krad)
近地球軌道での短期ミッション
エンジニアリングモデル
開発・評価・地上試験用途
エラーレート:
2E-3 per board-day
ラッチアップ免疫:
>78MeV(QML-Y)、>42MeV(Commercial/AEC-Q)
※QML-Y認定:米国国防総省が定める軍事・宇宙用半導体の最高品質規格
※AEC-Q100:自動車産業向け半導体の信頼性規格を宇宙用途に適用
|
|
🌐
次世代高速
データバス |
通信規格:
TSN for Avionics(Time Sensitive Networking)
通信速度:
240Gbps
高速通信
リアルタイム制御:
パケットの到達時間を保証
冗長性:
複数の通信パスを自動管理し、障害時も動作継続
|
|
💾
大容量
ストレージシステム |
DDR4 SDRAM:
16GB
従来比約8倍
Rad-Hard MRAM:
128MB(不揮発性メモリ)
SSD統合オプション:
最大10TB
データ管理:
観測・解析データを機体内に大容量保存し、重要なデータを優先的に地球に送信
|
5. 開発期間短縮の実現
**小倉**
近年、宇宙開発では、プロジェクト件数も増え、その内容も多様化・複雑化しており、OBCに従来許されていた設計・検証の期間よりも比べものにならない程のスピード感が求められています。
**岡田さま**
その通りです。一からOBCを含めたシステムを構築しようと思った場合、設計・検証(HW / SW)・試作・放射線試験・認証を含めると数年単位に及ぶにも関わらず、プロジェクトの増加により開発担当者への負荷は高まる一方です。
Osirisではこれら評価全てをQMLの認定工場であるPDCが完了しているため、信頼性が織り込みで、約1年でお客様への納品が可能です。
6. NebulaBoxソリューション
**小倉**
最近はボードのみの提供以外に、シャーシに組み込んだBOXレベルでの製品の提供を求められる頻度も多くなってきました。
例えば、SpaceVPXのシャーシを持っていない、電源や放熱設計に工数がかかるというお悩みです。
**岡田さま**
良い質問ですね。
まさにNebulaBoxというBOXレベルのソリューションもございます。これはOBC(オシリス)と大容量メモリーモジュール(シリウス)、電源を統合したシャーシソリューションです。そのため、お客様は電源を入れれば、すぐにペイロードの開発に着手できます。
**小倉**
まさに従来とは比べものにならないほどのスピード感が求められる宇宙開発において、このNebulaBoxは非常に有用なソリューションとしてお客様にご提案できそうですね。
**岡田さま**
その通りです。
改めて考えると、宇宙開発は本当に新しい段階に入ったと感じております。
**小倉**
はい。私も子どもの頃、スペースシャトルの打ち上げ映像を見て「すごい!」と思っていたあの頃から数十年。今では月面基地建設が現実のプロジェクトとして動き出しています。それを実現する最先端技術を、日本の宇宙開発の現場にお届けできることに、大きなやりがいを感じています。
JFE商事エレクトロニクスとして、私たちは最先端技術を持つDDC/PDCと、日本の宇宙開発に取り組むお客様との「架け橋」でありたいと考えています。単なる製品提供ではなく、技術パートナーとして、プロジェクトの成功に貢献していきたい。
宇宙戦略基金の設立、民間企業の参入—追い風が吹く今だからこそ、「こんなことができないか」というアイデアを、一緒に形にしていくお手伝いができればと思います。
宇宙開発の新時代、その最前線でお客様と共に歩んでいけることを楽しみにしています。
まとめ>>
PDC Osiris Computer Module(HPSC)は、従来の宇宙用コンピュータの限界を超える革新的な製品です。**26,000 DMIPS**の圧倒的な処理性能、そしてPDCの実績ある信頼性により、次世代宇宙ミッションの実現を可能にします。

