航空宇宙で注目の最新通信規格“TSN for Avionics”とは|次期戦闘機・ドローン・衛星ほか、先端技術の最前線を専門家に聞く!

 

 

産業用機器ではすでに使用されている「TSN(Time-Sensitive Networking)」。そんなTSNが発展を遂げた、いま注目の最新通信規格「TSN for Avionics(アビオニクス)」をご存知ですか? 次期戦闘機・最新ドローン・衛星など、航空宇宙分野で幅広く活躍が期待されているTSN for Avionicsは、米国ではすでに実用段階にも入っているのだとか。そんな最新通信規格TSN for Avionicsについて、MIL-STD-1553で国内トップシェアを誇るDDC社の専門家に詳しくお話を伺いました。

DDC/PDC 岡田社長

 

【DDC/PDCとは】

DDC/PDC社は、アメリカ・ニューヨークに本社を構える世界的メーカーです。航空機等で機器同士のデータ通信時に活用されるという点で高い信頼性や安全性が求められるデータバス分野を中心に、50年以上も業界を牽引し続けてきました。MIL-STD-1553Bに準拠したデータバス製品においては、日本トップシェアを誇っています。 

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☞【MIL-STD-1553B準拠データバス製品では国内トップシェア】DDC/PDC社とは?

 

 


1.“TSN(Time-Sensitive Networking)”とは

―――さっそくですが、まずはTSNについて教えてください。

**岡田さま**

TSN(Time-Sensitive Networking)は、イーサネットをベースとした、リアルタイム性・同期性に強みを持つ通信規格です。医療現場や生産現場などで用いられる産業用機器ですでに活用されています。

 

―――一般的なイーサネットとはどのような違いがあるのでしょうか?

**岡田さま**

タイムセンシティブ(Time-Sensitive)と名前がつくように、まさにリアルタイム性・同期性で一般的なイーサネットとは異なります。 

通信の違いで思い浮かべやすいのは、一般的なイーサネットですとインターネットなどで情報を検索して表示するシーンですね。たとえば朝ニュースサイトなんかを閲覧する際に、「あれ?今日はちょっと表示が遅いなあ」と思うことがありますよね。でも、待てばちゃんと表示される。ここでは、「データを完全に送り届ける」というイーサネットの特徴が発揮されているんです。

ただし、単に「データを完全に送り届ける」だけでは産業用機器の要件を満たさない場合もあるんです。生産・医療現場はもちろん、航空機、そして一般的な航空機よりもはるかに高速な処理を必要とする戦闘機であれば、「時間通りに」「データを完全に送り届ける」ことが必要となります。そうでないと、大きな事故につながってしまいます。

イーサネットの特長も持ちながら、この「時間通りに」にあたるリアルタイム性・同期性も持つのがTSNなんです。

 


2.米国で注目の次世代通信規格“TSN for Avionics”、その背景とは

―――「データを完全に送る」だけでなく、さらに「時間通りに」もクリアするのがTSNなのですね。そこから派生的に誕生したのがTSN for Avionicsかと思いますが、どのようなものかお伺いできますか?

**岡田さま**

TSN for Avionicsは、航空宇宙(エアロスペース)分野向けに最適化された形で新たに企画された通信規格(TSN)です。IEEEなどによって、いままさに実用化に向けて試案されている段階ですが、すでに実用段階でもあります。そのため、航空機への搭載もされるなど、米国では非常に注目を集めています。DDC/PDCとしても、製品化を進めている最中です。

TSN for Avionics 製品 透過

―――まだ企画段階でありながら、並行して実用化もされているということは、それだけ完成度も高いのですね。航空宇宙分野でミリタリーグレードの高信頼性を持つ通信規格といえば、日本でトップシェアを誇る DDC/PDC社様のMIL-STD-1553Bも存在するかと思いますが、なぜいまTSN for Avionicsへの注目がされているのでしょうか?

**岡田さま**

これまでMIL-STD-1553Bと同等の性能で代替可能なものが存在しなかった」というのがひとつの要因だと考えます。まずMIL-STD-1553Bは、一般的な航空機よりもさらに厳格な基準で遅延の少なさなどが設定されたミリタリーグレードであり、1975年から長年稼働し続けていることで高信頼性が特長の通信規格です。

防衛機器は、長年の運用も見越して安定性が重要視されます。実際に、その基準を満たしているからこそMIL-STD-1553Bは現行機器で広く採用いただいています。しかしその一方で、技術は常に進化し続けており、その技術の進化に合わせた形として、米国にて研究開発がかねてより実施されてきたのです。

というのも、現代と30年前では飛び交うデータ量が全く異なります。膨大になったデータ処理をおこなうために、これまではMIL-STD-1553Bと組み合わせる形で個別に専用機器などが利用されてきました。ただし現実的な課題として機能が増えるほどに複雑さは増し、データ量が上限に達し拡張性がないことが課題としてあげられます。

こうした複雑さから新機体の開発も10〜30年かかるのが当たり前となっているのが実情です。このままでは機体のニーズにバスの通信速度が追いついていかなくなるため、MIL-STD-1553Bの運用と並行して、次世代通信規格のニーズが生まれてきたのです。

こうした流れのなかで、現代で必要とされている性能を包括しながら、戦闘機での利用にも耐えうるリアルタイム性を備えた通信規格として新たにTSN for Avionicsが誕生したことで注目を集めているんです。

 

―――高信頼性から現在も活躍を続けているMIL-STD-1553B。そして、時代の変化と共に新たに発生した要求を包括する形で新たに誕生し、活躍が期待されているのがTSN for Avionicsということですね。


3.次世代通信規格“TSN for Avionics”が持つ5つの特長

―――それでは、TSN for Avionicsの特長を教えてください。

**岡田さま**

TSN for Avionicsは、リアルタイム性、同期性、冗長性、広帯域/汎用性、セキュリティ性の5つが主な特長です。それぞれ簡単にご紹介します。

【TSN for Avionicsの5つの特長】

特徴

詳細

リアルタイム性

時間通りに、データを完全に送信可能

同期性

同タイミングでのデータ伝達が可能

冗長性

フェールセーフが意識された設計

広帯域/汎用性

画像データのやり取りも可能な広帯域による汎用性

セキュリティ性

サイバーセキュリティを考慮した設計

 

①リアルタイム性

先ほどご紹介した通り、「時間通りに」+「データを完全に送る」TSNのリアルタイム性は大きな特長のひとつです。TSN for Avionicsでは、通信の優先度が設定され、MIL-STD-1553Bのように重要なデータの転送において、限りなく遅延のない通信を実現します。たとえばA・B・Cが連動している機器で緊急停止ボタンが押された際に、Cだけが指示データの到着が遅れて停止されなかったとすれば、“緊急停止”は成立しません。もともとイーサネットをベースとしている点で、戦闘機や衛星など高性能な通信が必要とされる機器では実現が難しいとされていましたが、TSN for Avionicsは航空宇宙に特化することでリアルタイム性が実現されました。

②同期性

同期性は、1つのデータが複数の機器に同じタイミングで行き渡るかどうかを意味しており、いわゆる、データフュージョンを実現します。たとえば、同じ地点を異なる時間や角度から観測したセンサーデータ、さまざまな波長で撮影した画像など、これらを一体化して活用することで、より深い洞察が得られます。
将来的には多様なデータを瞬時に統合して最適解を導き出すことが重要になってくるため、TSN for Avionicsにおける同期性は重要な機能といえます。今後の航空宇宙の要求に満足できる仕様になったといえるでしょう。 このようなデータフュージョンなどが必要とされるプロジェクトにおいても対応可能と考えられます。

③冗長性

冗長性は、システムの一部に障害が発生した場合でも、正常な動作を実行させる仕組みになります。TSN for Avionicsはフェールセーフの意識のもと、冗長性を考慮した設計がされています。

④広帯域/汎用性

帯域は、広いほど大容量かつ高速な通信が可能です。1553規格は、わずか1M(メガ)bpsほど。しかしTSN for Avionicsでは、従来のシンプルなデジタル信号の送受信に加えて汎用的な画像データの通信も考慮され、40G(ギガ)bps以上、潜在的には100G(ギガ)bpsも可能とされています。

⑤セキュリティ性

航空機システムにおいても、サイバー攻撃の標的となる危険性は潜んでいます。ハッキングやマルウェアの感染など、そのようなセキュリティ事故により1秒でも制御不可能な状態があれば重大な事故へとつながってしまいます。その点でTSN for Avionicsは、サイバーセキュリティ性が規格として十分に盛り込まれているため、安全に活用できるようになっています。

以上が、TSN for Avionicsの主な特長です。


4.次世代戦闘機、最新ドローン、衛星などへの活用も期待

無人航空機

―――従来のTSNを航空宇宙分野に特化し、ユーザーが望む声を実現する形で実現段階にあるTSN for Avionicsですが、具体的にはどのような機器/機体への活用が考えられますか?

**岡田さま**

IEEEによるオープンな航空宇宙向け通信規格として設計されているため、活用が想定される範囲も多岐にわたることが考えられます。一般の航空機やヘリコプターの高性能化や、最新ドローン。また、宇宙との通信をおこなうための衛星や、次世代戦闘機といった高性能で高信頼性が求められる防衛機体への活用も十分に考えられると思います。

 

―――日本でも英・伊と共同開発予定の次期戦闘機が話題となっていますね。

**岡田さま**

次世代戦闘機でいえば、AIの活用も想定されていることが話題となっています。したがって大容量の通信サイバーセキュリティは当然として、音速(マッハ)での航行ではリアルタイム性/同期性/冗長性も重要です。こうした機体の高性能化には通信規格のアップグレードも重要だと考えられるため、TSN for Avionicsはより注目度が高まるかもしれませんね。 


5.TSN-Avionics導入で考慮すべきポイントとは

―――TSN for Avionicsを今後導入の検討をするとすれば、どのようなポイントが意識されるでしょうか?

**岡田さま**

まずは規格としてのTSN for Avionics自体への理解が重要だといえます。航空宇宙分野における汎用性を持っているため、幅広い活躍が期待される分、どのように活用していけるのか悩ましい部分も出てくるのは当然です。私たちDDCも、従来のMIL-STD-1553Bで培ってきた知見を生かしながらTSN for Avionics製品の開発を進めているため、航空宇宙業界のお客様を広くサポートできると考えています。

 

―――世界的なMIL-STD-1553Bを展開するDDC/PDC社として、現行のMIL-STD-1553Bから最新のTSN for Avionicsもカバーしてもらえるのであれば、安心感を感じますね。

**岡田さま**

また、TSN for Avionicsの製品実用化にあたっては、米国の連邦航空局(FAA)の認証取得も重要なポイントのひとつです。というのも、FAAの認証が1つのグローバルの信頼性の基準として広く認知され始めているからです。

FAAと世界地図

―――国際レベルでの認証となると、取得も容易ではなさそうですね。

**岡田さま**

そうですね。実際に、FAAの認証は厳しい審査を通過しなければならず、取得が容易ではありませんDDC/PDCは、数少ないFAAの認証を取得できる企業の1社です。そのため、FAAの認証を取得済みであるDDC/PDCのTSN for Avionics製品を購入して、自社の製品に組み込んで使用する方法もあります
FAAの認証を得たTSN for Avionics製品を活用したい場合には、ぜひDDC/PDCにお声がけいただければ幸いです。 


まとめ>>

―――世界的に用いられているMIL-STD-1553Bの後継として、米国でも注目の次世代通信規格TSN for Avionics。DDC/PDC社では審査の厳しいFAAの認証取得も可能であり、50年以上に渡るMIL-STD-1553Bの知見を活かしてTSN for Avionicsの導入サポートもしていただけるとのことでした。

TSN for Avionicsについてもう少し詳細に知りたい方は、ぜひ下記問い合わせよりご連絡ください。


 

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