MIL-STD-1553とは|歴史・主な特徴・技術詳細・今後の見通しを専門家がわかりやすく解説

 

航空宇宙分野における通信規格の基幹として、その高信頼性から、1978年の制定以来、60年以上にわたり確固たる地位を築いてきた“MIL-STD-1553”が存在します。本記事では「MIL-STD-1553」の基礎知識として、その歴史や技術情報、今後の見通しについて、MIL-STD-1553B準拠データバス製品で国内トップシェアを誇る世界的メーカーDDC/PDC社の専門家に詳しくお話を伺いました。

DDC/PDC 岡田社長

【DDC/PDCとは】

DDC/PDC社は、アメリカ・ニューヨークに本社を構える世界的メーカーです。航空機等で機器同士のデータ通信時に活用されるという点で高い信頼性や安全性が求められるデータバス分野を中心に、60年以上も業界を牽引し続けてきました。MIL-STD-1553Bに準拠したデータバス製品においては、日本トップシェアを誇っています。

DDCロゴPower Device Corporation コーポレートロゴ

 

 


1.MIL-STD-1553とは

―――MIL-STD-1553について、概要を教えてください。

**岡田さま**

MIL-STD-1553は、米国空軍の協力の下、規格化された航空機に特化した、航空機内ネットワーク通信の標準のことを指します。具体的には、データバスの機械的・電気的・機能的特性について定められています。

活躍シーンは、高度な技術レベルが要求される航空機をはじめ、地上はもちろん、宇宙船や人工衛星といった宇宙領域など多岐にわたります。制定以来、60年以上にわたって現在も稼働し続けているほどに高い信頼性が特徴のひとつです。

 

 


2. MIL-STD-1553発展の経緯

―――MIL-STD-1553はどのような背景で誕生してきたのでしょうか?

**岡田さま**

MIL-STD-1553が初めて登場したのは1975年です。1975年4月にMIL-STD-1553Aが、1978年9月にMIL-STD-1553Bが誕生しました。このMIL-STD-1553が考案された背景には、戦闘機におけるシステムの高度化に伴うスペース・重量の問題(SWaP)を解決したい狙いがあったとされています。

初期の航空機では、翼のフラップと操作する操縦桿を機械式に結び制御していました。こうした物理的な操作を、電気信号でおこなえるようにしたのがフライ・バイ・ワイヤ(Fly By Wire)方式です。

このフライ・バイ・ワイヤ方式において、1970年代以前、一般的に内部構造で採用されていたのは各アビオニクス機器同士を個々に配線する、ポイントToポイント方式でした。しかしシステムの高度化が進み、搭載するアビオニクス機器の数・種類も増大するにつれ、配線で機体のスペースは圧迫され、重量も増加してしまうことが課題となっていました。

電子装備品の増加
高信頼性のためには、機器を2重系、3重系にする必要がある。
各機器の信号接続はそれに伴い、多数の電線が必要となる→重量の増大、コネクタ数の増加は信頼性低下となる。

1553と従来方式

 

このスペース・重量の課題に対し、バス型ネットワークに置き換えることで配線の削減を実現させたのがMIL-STD-1553です。

1553の航空機の配線イメージ

(左:ポイントToポイント方式、右:バス方式)


3. 主な特徴


―――MIL-STD-1553の主な特徴について教えてください。

**岡田さま**

高信頼性なMIL-STD-1553の主な特徴には、「リアルタイム性」「冗長性」「電気的絶縁」の3つが挙げられます。

<MIL-STD-1553の主な特徴>

①リアルタイム性

MIL-STD-1553は、リアルタイム性に優れた通信規格です。バスコントローラ(BC)をマスターとしたシンプルなシステム設計や、専用のコマンドワードによって効率化された通信によって遅延を回避し、リアルタイム性の高い通信を可能とします。

②冗長性

冗長性を設けてあることで、異常事態の際でも通信を途絶えさせないことがMIL-STD-1553の特徴のひとつです。

③電気的絶縁

MIL-STD-1553Bにおける電気的絶縁は、トランスフォーマー・カプリング(変圧器結合)を採用することで、システム間の完全な電気的分離を実現することで、異なる電源系統を持つ機器間でも安全かつ安定した通信を可能とする耐雷性を備えています。


4. 使用例


―――MIL-STD-1553はどのようなシーンで活躍していますか?

**岡田さま**

もともと防衛での使用を前提に開発された通信規格のため、空では戦闘機・大型機、地上では装甲車等に活用されています。また、こうした高い要求ハードルを超えたものだからこそ現代では民間航空機をはじめ、宇宙船や人工衛星といった宇宙分野でも広く活用されています。

<使用例>

分類

具体例

航空機
(固定翼と回転翼)

F-14,F-15(McAir),F-16,F-2,SH-60K/L,P-3Cなど多数

宇宙

H-2ロケット,人工衛星,国際共同宇宙ステーション

艦船

護衛艦,潜水艦

地上車両

10式戦車,16式機動戦闘車,55mm榴弾砲,M1A2

 


5. 技術特徴


―――技術的な特徴について教えてください。

**岡田さま**

MIL-STD-1553について、構造的な特徴と通信の特徴に分けてご紹介します。



5-1. 構造

MIL-STD-1553の特徴として、バス・コントローラ(BC)・リモート・ターミナル(RT)・モニタ(MT)と呼ばれる3種類の役割を担った機器で構成されています。

<構成>

MIL-STD-1553は、通信の司令塔として存在するバス・コントローラ(BC)、BCからのコマンドを受けて通信をおこなうリモート・ターミナル(RT)、そして通信状態を監視できるモニタ(MTまたはBBM(バックアップ・バス・モニタ))で構成されています。BCは1端末のみで、RTは必ずBCからの命令を受け取って通信をおこないます。

BC(Bus Controller):バス・コントローラー すべての通信を司る
RT(Remote Terminal):リモート・ターミナル 0-31の機器番号 31は特殊でブロードキャストアドレスと呼ばれる。(同時に同じデータを送信したりできる)
MT(Monitor):モニタ すべての通信をモニタすることができる。 

1553の接続形態

<結合方式>

MIL-STD-1553の結合方式としては、トランスフォーマー(変圧器)を仲介させることで絶縁・ノイズ耐性向上を図るトランスフォーマー・カプリング(変圧器結合)と、簡略的なダイレクト・カプリング直接結合)の2種類があります。 

1553バスのカップリング方法

信頼性が求められる航空機などではトランスフォーマー・カプリング(変圧器結合)の採用が一般的です



5-2. 通信方式

通信の特徴としては、MIL-STD-1553の通信ではシリアル方式を採用しており、デジタルデータとして伝送されます。ビットレートは1MHzで固定です。

<ワード型>

MIL-STD-1553はマンチェスターⅡ符号を採用しており、16ビットの「コマンドワード」・「データワード」・「ステータスワード」と呼ばれる3種類のワード型が規定されています。電送上は20ビットで、始まりの3ビットを”SYNCビット”、末尾の1ビットを”PARITYビット”として使用しています。

※SYNCビット:波形でワード型を区分するために使用
※PARITYビット:エラー状態を確認するために使用

コマンドワードは、文字通り“命令をおこなう”ためのワード型であり、BCを使用するものはすべてコマンドワードにあたります。データワードは、生データが格納されているワード型。そしてステータスワードは、RTが使用するワード型であり、BCからのコマンドワードを受けての返答にあたります。

1553のWordフォーマット

 

<データ送受信例>

MIL-STD-1553は、BCがマスターとして通信がおこなわれます。そのため、通信はまずBCのコマンドワードから始まります。パターンとしては、マスターであるBCからRTへの通信(BC→RT)やRTにBCへのデータ送信を求める通信(RT→BC)、そしてRTからRTにデータを送る通信(RT→RT)もあります。“RT→RT”の場合もマスターであるBCからのコマンドワードが、それぞれのRTに対して発信されます。

送受信の手順

1553の送受信の手順

 

また、一対一の通信だけでなく、MIL-STD-1553はBC/RTから複数ターミナルへのブロードキャスト通信にも対応しています。

ブロードキャスト フォーマット

1553のブロードキャストフォーマット

 

<モードコード>

MIL-STD-1553では“モードコード”と呼ばれる特殊な通信が存在します。モードコードは、RTに対しハード的要求、時間同期やリセット要求などでも使用されます。

MIL-STD-1553 モードコード

1553のモードコード

 

<送信スケジュール> 

命令を送る順番を定めたスケジューラとして、“メジャーフレーム”“マイナーフレーム”が存在します。複数のマイナーフレームを組み合わせたものがメジャーフレームです。あらかじめ順番を定めることで、複数のRTに異なったタイミングでリアルタイムに通信できます。

1553の送信スケジュール(Major Minor Frame)

 

 

6. サポートソフトウェア

――――MIL-STD-1553が規格化された当初から1553製品の開発に関わってきたDDC/PDCとして、どのようなサポートがありますか?

**岡田さま**

MIL-STD-1553の仕様について、はじめからすべてを理解するのは難しいかもしれません。

そのため開発を容易にしてくれるサポートソフトウェア提供しています。DDC/PDCとして提供している製品の一部をご紹介します。

・BusTrACEr(バストレーサー)

MIL-STD-1553の通信をシンプルに模擬できるソフトウェアです。また、送信シナリオをC言語のソースとして生成することができます。

BusTrACErの操作画面

☞Data Device Corportation - BusTrACEr® MIL-STD-1553 Graphical Monitor/Generator

 

・dataSIMS(データシームズ)

動的データを扱うことができ、MIL-STD-1553の細かなシミュレーションや解析が可能です。GUIでユーザフレンドリーなソフトウェアです。dataSIMSの操作画面

Data Device Corportation - dataSIMS Avionics Data Bus Test and Analysis Software

 


7. 今後の見通し


―――高信頼性から活用され続けているMIL-STD-1553ですが、今後の発展可能性について教えてください。

**岡田さま**

MIL-STD-1553Bは、1978年の制定以来、航空宇宙分野における通信規格の基幹として、60年以上にわたり確固たる地位を築いてきました。この規格が長年にわたり支持され続けている背景には、その堅牢性、信頼性、そして実装の容易さがあります。

特に、1Mbpsの通信速度は現代の規格と比較すると控えめではありますが、システムの冗長性、ノイズ耐性、そして何より実績に裏付けられた安定性は、ミッションクリティカルな環境において極めて重要な価値を持ち続けています。

現在も世界中の航空機や人工衛星で採用され続けているMIL-STD-1553Bは、新規開発プロジェクトにおいても、その信頼性の高さから選択され続けています。既存システムとの互換性維持の観点からも、この規格は今後も重要な役割を果たすことが予想されます。

さらに、長年の運用実績により、設計ノウハウの蓄積、部品の安定供給、技術者の育成体制が確立されていることも、本規格の持続的な価値を支える重要な要素となっています。

このように、MIL-STD-1553Bは、確立された技術基盤と豊富な実績を活かしながら、これからも航空宇宙分野における重要な通信インフラとして、その役割を着実に果たしていくことが期待されます。

 

8. 次世代の高速バスについ

また、アビオニクス分野で長年の圧倒的な採用実績を誇るMIL-STD-1553の遺伝子を受け継いだ大容量のデータ通信と拡張性を兼ねそろえた次世代通信規格“TSN for Avionics”も米国ではすでに注目を集めています。

このように幾多の課題を乗り越え、確かな実績を積み上げてきたMIL-STD-1553と、卓越した能力で躍進が期待されるTSN for Avionicsが共存しながら、これからも時代に合わせた発展を遂げていくことが予想されます。

 

>>>まとめ

高い技術要件のもと、長きにわたって広く普及・活躍し続けているMIL-STD-1553。本記事では、MIL-STD-1553B準拠データバス製品で国内トップシェアを誇る世界的メーカーDDC/PDC社の専門家にMIL-STD-1553の基礎知識から技術詳細までお話を伺いました。MIL-STD-1553関連製品や、DDC/PDC社製品に興味をお持ちの方は、ぜひ下記お問い合わせよりご連絡ください。

 

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