宇宙で放射線が半導体にもたらす影響とは|原因と対策をわかりやすく解説

 

はじめて人類が宇宙を訪れてから半世紀以上が経過した現代。技術発展によって研究が進み、民間人向けの宇宙旅行も企画されるなど、宇宙は身近な存在になってきています。そんな宇宙空間において、地球上とは異なる認識を持たなければならない存在のひとつが”放射線”です。本記事では、放射線の基礎知識から、宇宙で放射線が半導体にもたらす影響についてわかりやすくご紹介します。

宇宙衛星

 

 


1.放射線とは


・高エネルギー粒子や電磁波の総称

“放射線”は、放射性物質から放出される高いエネルギーを持った粒子や電磁波の総称です。具体的には「α(アルファ)線」や「β(ベータ)線」、「γ(ガンマ)線」、「中性子線」といった複数種類が存在します。 身近な放射線の例としては、「X(エックス)線」が挙げられます。


・レントゲン博士が発見したX線

レントゲン

X線は、レントゲン博士(Wilhelm Conrad Rontgen, 1845-1923)によって1895年に発見されました。当時レントゲン博士は、真空状態のガラス管に高電圧をかけることで発生する光が、一部の物体を透過する現象を発見。この“未知”な現象から“未知”を意味する“X”線と名付けられ、この現象を元に活用されているのが医療現場でよく目にする“レントゲン写真”です。 


・主な性質は“透過”と“変質”

放射線には大きく2つの性質があります。1つはレントゲン写真からもわかるように“物体を透過する性質”。もうひとつは、“物質を変質させる性質”です。これらの性質は、レントゲン写真や物質の加工、発電など、有効活用によって私たちの生活を豊かにしてくれるものでもあります。

 


2.宇宙空間で大きな影響を持つ“宇宙放射線”


・放射線の性質による人体・機器への懸念

宇宙線

放射線は、レントゲン写真で用いられるような人工的に発生させた人工放射線とは別に、自然界にも存在します(自然放射線)。そして宇宙から降り注いでいる放射線のことを“宇宙線”または“宇宙放射線”と呼び、私たちは日常的に放射線と共に生活を送っています。こうした放射線において懸念事項のひとつに挙げられるのが、“物質を変質させる性質”による人体・機器への影響です。 

人体への影響については、日常生活で蓄積する範囲での自然・人工放射線においては明確な因果関係が見られないものの、一度に多量の放射線を浴びると影響を受ける可能性があります。 そしてこのような放射線の影響は、私たちの生活はもちろん、宇宙開発でも重要な機器・半導体関連装置においても同様の配慮が必要です。


・宇宙空間では線量増加により影響も増加

特に宇宙放射線は、宇宙空間での線量と地上での線量が大きく異なります。というのも、地球は普段大気に覆われていることや磁場が存在することから、宇宙空間と同等の線量が地上にそのまま降り注ぐことはありません。 

しかし、そのような地球を覆う大気・磁場を抜けた宇宙空間、たとえば国際宇宙ステーション(ISS)が位置するLEO※(Low Earth Orbit:低軌道)やその先のMEO( Medium Earth Orbit:中軌道)・GEO(Geostationary Earth Orbit:静止軌道)へと地球から離れるほど、宇宙放射線の線量増加と共に機器等への影響は大きくなります。 つまり宇宙空間で活動し続ける人工衛星などに用いられる機器・半導体関連装置は、地上とは異なる過酷な環境への適応が求められます。

ディープスペースとDDC製品

※LEOでの宇宙放射線源には、銀河宇宙線(Galactic Cosmic Ray:GCR)・太陽フレア粒子(Solar Particle Event:SPE)・放射線帯粒子(Radiation Belt Particle:RBP)の3種類が挙げられる。

 


3.宇宙放射線によるハードエラー・ソフトエラー

宇宙放射線によって引き起こされる機器の不調は、ハードエラーとソフトエラーの2種類に大別されます。それぞれについて、具体的な要因と共にご紹介します。

TIDとSEEのイメージ

・ハードエラー

ハードエラーは、文字通り部品そのものや部品に使用されている半導体素子など、ハード(機器)に対して起こる恒久的な不具合のことです。具体的には“トータルドーズ効果(TID:Total Dose Effect)”などにより、電離作用を持つ多量の放射線に晒されることで部品・半導体素子そのものが劣化することがハードエラーの一因として挙げられます。

 

 ・ソフトエラー

ソフトエラーは、部品や半導体素子といったハード(機器)そのものではなく、システムに対して起こる突発的・一時的な不具合のことを指します。具体的には、高エネルギー粒子が半導体に入射することによってデータの反転や回路の誤作動が起こる“シングルイベント効果(SEE:Single Event Effect)”がソフトエラーの一因として挙げられます。 

宇宙空間では、こうした放射線の影響を避けられず、地上とは環境も条件も大きく異なる中で対処が求められます。そのため、“いかに放射線による影響を小さくできるか”が重要です。


4.宇宙で求められる高い“放射線耐性”

宇宙空間において、宇宙放射線の影響は避けられません。だからこそ宇宙放射線対策の例としては、“ラドハード(Rad-Hard)製品”などで知られる“高い放射線耐性”を持つ製品を使用することが挙げられます。

宇宙仕様ではない一般的な半導体素子の場合、一定の宇宙域を超えた際に、前述したトータルドーズ効果やシングルイベント効果の影響を強く受けてしまうことが懸念されます。また、放射線を完全に遮断することも現実的な対策とは言えません。

しかし、宇宙仕様のラドハード製品は、放射線耐性が高いことによって半導体素子の劣化やソフトエラーを防止できます。地上とは異なり、わずかなエラーも大事故につながってしまう宇宙空間だからこそ、あらかじめ宇宙放射線に耐えうる製品で宇宙放射線対策を行うことが重要です。

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JFE商事エレクトロニクスでは、実績豊富なDDC/PDC社が展開する高い放射線耐性(100krad以上)を誇るSBC(シングルボードコンピュータ)ほか各種ラドハード製品や、ラドハード加工を施したメモリ・コンバータ等「RAD-PAK®️」製品も取り扱っております。実績に裏付けされた確かな放射線耐性に興味がある方は、ぜひ下記記事もご覧ください。

 

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